「人が人らしく働ける会社」を目指して── 3代目社長の変革ストーリー

アルミ押出部門

加藤軽金属工業株式会社 代表取締役社長 加藤 大輝

1961年創業の加藤軽金属工業株式会社は、アルミ押出型材の製造・加工・組立を一貫して行うメーカーだ。ビルの外装・内装向け建材から、機械・自動車部品のカバーやレールに至るまで、幅広い分野で同社の製品が使われている。建材と機械・自動車関連がそれぞれ約4割を占めるという。「お客様の困りごとに寄り添い、短納期で応える」──そんな評価を得てきた同社だが、その裏側では見過ごせない歪みも生じていた。3代目としてバトンを受け取った加藤大輝氏は、その“目に見えない問題”に向き合い、「人間らしい経営」を合言葉に改革の舵を切っている。

ミッション・ビジョン・バリューが、社員の行動を変えていく

「社員は会社の歯車ではない。人として、ちゃんと自分の頭で考えて動けるようになってほしい」

そう考えた加藤氏は、会社としての進むべき方向を共有するために、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV) を導入することを決意。外部のコンサルタントと連携しながら、マネジメント研修や各種トレーニングを継続的に行っている。

リーダーシップ、アンガーマネジメント、心理学、社内制度設計など、多岐にわたる研修を通じて、「MVVが示す方向に照らして、自分の行動を見直す」という意識が少しずつ芽生えてきた。

「上から降りてきたMVV」ではなく、「社員が主体的に関わるMVV」にするため、人事制度やプロジェクト制も整備。新たなプロジェクトを立ち上げて目標を達成すれば、評価にきちんと反映される。自律的に動けば動くほど、会社も個人も前に進む設計だ。

短納期の影に潜んでいた“見えない無理”

2020年、事業承継のために入社した当時の加藤軽金属工業は、典型的なトップダウンの組織だった。社長の一言が絶対で、会議でも社員が意見を口にすることはほとんどない。情報が共有される仕組みもなく、「上が決めたことをただこなす」空気が浸透していた。

「納期は守られているけれど、そのためにどこかの部署が無理をしている。しかも、その負担を本人以外は誰も把握していない。そんな状態でした」

結果として、全体最適とは程遠い生産計画が組まれていた。100キロの荷物を運ぶためだけに大型トラックが1台動く──そんな非効率も珍しくなかった。

一方で、社員をよく観察すると、自分で考えて動ける人材は多く、顧客からの信頼も厚い。「人も強みもあるのに、それを活かす仕組みがないだけだ」と加藤氏は気づく。

バッファー設計と対話の仕組みで、会社の“回り方”を変える

社長に就任して最初に取り組んだのが、バッファー(時間的余裕)の見直しとコミュニケーションポイントの増設だった。

受注時・生産指示時・製造時のそれぞれで、あらかじめ余裕時間を設定し、営業と製造がその都度すり合わせを行う。どこか一部門に負荷を押し付けるのではなく、「お互いの事情を理解しながら納期を決める」体制へと切り替えたのである。

日常的な対話が増えることで、現場のメンバーは自分の工程だけでなく、その前後で何が起きているのかを意識するようになった。結果として、生産・出荷がスムーズにつながり、ムダなトラックの運行なども削減。年間で数千万円規模のコストカットを実現しながら、納期遵守も維持できるようになった。

こうした改革の下地には、加藤氏の前職での経験がある。人材会社時代には、製造業を中心に200社以上と関わり、元上場企業の経営者や研究開発トップをスポットで紹介しながら、経営改善や新規事業立ち上げを支援してきた。

「多くの経営者と関わる中で学んだのは、社員を“駒”としてではなく“人”として扱うことの重要性です。ルールだけで締めつけるのではなく、そこに“情”を入れた経営をしている会社ほど、強くしなやかに成長していました」

この経験があったからこそ、「人間らしい経営」という軸が、今の取り組みの中心に置かれている。

「寄り添AL社会」をつくるための、5つのバリュー

加藤軽金属工業のミッションは、【寄り添い型探し】。人として相手に向き合い、自分にも他者にも誠実に寄り添う姿勢を大切にする、という意味が込められている。

ビジョンは【寄り添AL(よりそえる)社会】。“AL”にはアルミニウム(Aluminium)の意味も重ねられており、「人に寄り添うアルミ製品が当たり前に存在する社会をつくる」という決意表明でもある。

それを具体的な行動に落とし込むためのバリューとして、同社は次の5つを掲げている。

・おもろい研究:失敗を恐れずに挑戦し、その結果をデータとして共有する文化をつくること。

・熱完動:熱いうちにやり切る。相手を感動させるレベルまでやり抜くこと。

・真心トーーーク:遠慮ではなく配慮を。言うべきことはきちんと伝えながら、真心を持って対話すること。

・「ありがとう」で始まり笑顔で終わる:相手を認める一言から会話をスタートさせ、どんな激しい議論の後でも前向きな笑顔で締めくくること。

・三方ファン作り:「売り手よし・買い手よし・世間よし」にとどまらず、三者すべての“ファン”になってもらえる関係を築くこと。

これらのバリューを日々の仕事に結びつけることで、「人間らしく働ける会社」を形にしていこうとしている。

社会課題の解決へ──地域・日本への“恩返し”としての新規事業

事業承継から現在に至るまで、加藤氏の根底にあるのは「取引先や社員、そして社会全体への恩返し」だという。自らの役割を「自分がいなくても回り続ける会社にすること」と定義し、加藤軽金属工業という“器”が、社会の一部として機能し続ける状態をつくることを目標に掲げている。

その一環として、地域のベンチャー企業支援にも積極的に関わる。ディープテック系スタートアップの研究開発サポートを進める中で、自社のR&Dを外部ベンチャーに委ね、自分たちは人のつながりづくりや事業計画の策定、社会実装の支援に注力する──そんな「互いに頼り合う関係」を築いている。

とりわけ期待しているのが、リサイクル可能簡易接合 の技術だ。低コストで金属と樹脂を接合しながら、使用後には水や熱で簡単に分離できる。これにより、産業廃棄物のリサイクル率を大幅に引き上げられる可能性がある。

「将来、市場に出回る製品の6割以上の部品をリサイクル可能にする」そんな社会運動と並行して、技術開発・サービス開発を推し進めている。

さらに別の企業と協働して開発しているのが、大容量レドックスフロー電池。災害で送電網が途絶えたエリアにも電力を届けられるポテンシャルを持ち、再生可能エネルギーの有効活用にもつながるとして、産官連携も視野に入れながら事業化を目指している。

先行きが読みにくい時代だからこそ、「社会に必要とされる事業をつくり続けること」と「社員が人として誇りを持てる職場を守ること」。この両輪を回し続けることが、加藤氏の考える“人間らしい経営”の答えだ。

「社員が『仕事が楽しい』と胸を張って言える会社でありたい。その約束を、取引先や社会とも交わしているつもりです」

【企業情報】

加藤軽金属工業株式会社

本社住所:
〒497-8533 愛知県海部郡蟹江町西之森3-47
HP:
https://katokei.co.jp/
設立:
1961年
代表取締役:
加藤 大輝