確かな技術に、働き方の刷新を掛け合わせる——下請け町工場から、“選ばれるブランド”へ
有限会社ダイテック 代表取締役 近藤 充雄
有限会社ダイテックは、産業機械部品をはじめとする各種金属部品の製造・販売を手がける加工メーカーだ。大手工作機械メーカーの下請けとして鍛え上げた切削加工技術を基盤にしながら、近年は一般消費者向け(BtoC)の自社商品の開発・販売にも力を注いでいる。代表的なオリジナル商品は、「なないろのベビーリング」「THE SCREW」「金刻」。いずれも“金属加工の技術”を、意匠性と物語性を伴う商品へと昇華させたラインアップで、百貨店や空港などの販路でも扱われてきた。自社の商品の工程技術を活用し体験型プログラムを実施しものづくりの仕組みや「物ができる過程」を学べる機会を提供。下請けという立場に留まらず、ものづくりの可能性を広げてきた近藤充雄さんに、挑戦の背景と今後の展望を聞いた。
町工場の宿命を超えるために——分社という決断
ダイテックは2006年、株式会社大藤製作所(1940年創業)から分社する形で誕生した。近藤さんが独立の必要性を強く意識したのは、リーマンショックやコロナ禍のように社会が大きく揺れる局面だったという。「親会社や取引先の景気に依存していては、抗えない波がある」。そんな危機感が、新素材・新分野への挑戦を後押しした。
創業当初は、従来からの得意領域である金属切削加工を軸に、産業機械部品や精密加工部品の製造販売、太陽光発電の売電など、BtoB事業に集中していた。しかし時代が進み、電気自動車シフトなど産業構造の変化によって、将来的に産業機械部品の需要が縮小していく可能性が見えてくる。そこで近藤さんは、培った加工技術を“別の市場”へ展開する発想に舵を切った。
生産性は、設備だけでなく“働き方”で上がる
BtoCへ踏み出すには、まず土台となるBtoBの安定が必要だった。ダイテックは補助金も活用しながら設備投資を進め、作業の効率化と業務改善によって“時間の余力”を生み出していく。
並行して取り組んだのが、働き方の見直しだ。当時、従業員は女性パートが多く、課題は月曜日の稼働だった。祝日や学校行事の代休、長期休暇などが重なり、月曜に突発的な休暇希望が出やすい——年間で相当数にのぼる。そこで近藤さんは発想を反転させ、「月曜を定休日にする」決断をした。
月曜日を、金融機関・行政手続き・通院、あるいは子育ての調整日に充てられるようにし、さらに給与は10%アップ。結果として稼働率が上がり、生産性も改善したという。
今でこそ週4日勤務は珍しくなくなりつつあるが、近藤さんは「15年ほど前にやったと思うと、確かに大胆だった」と振り返る。
こうしてBtoBを安定させ、時間と体制を確保できたことで、BtoCに注力する準備が整っていった。
“娘への贈り物”が、ブランドの第一歩になった
オリジナル商品の第1弾は、「なないろのベビーリング」。きっかけは、近藤さんが娘さんの誕生時にベビーリングを贈ったことだった。小さな指のサイズを測りながら作ったその時間は、職人としての喜びと、家族の幸福が直結した瞬間だったという。「自分の技術で、誰かを幸せにできる」。その感覚が、商品化へとつながった。
素材には、軽量でアレルギーフリーながら加工難度の高いチタン合金を採用。赤ちゃんの肌への優しさに配慮しつつ、パッケージやデザインも含め“贈り物として成立する完成度”を追求した。町工場がベビーリングを作るという意外性も相まって、反響は大きかった。
「ねじ」で遊ぶ——発想の転換が生んだ第二の柱
二つ目のオリジナル商品が、大人をターゲットにした本格メタルブロック「THE SCREW」だ。着想の源は、ベビーリングを携えて参加した大阪のママキッズフェスタ。そこで、子どもにボルトとナットを触れさせて遊ばせている企業を目にしたことがヒントになった。
“ねじ”は工業製品の世界では当たり前の存在だが、遊びや嗜好品として成立させるには、重さ、材質、摩擦といった要素を設計し直す必要がある。ダイテックはそこに本気で向き合い、金属加工ならではの精度と触感を突き詰めた。
その結果、「THE SCREW」はOMOTENASHI Selection 2024 特別賞を受賞。成田空港やニューヨークでも販売されるなど、販路は国内外へ広がっていく。
五輪の計画変更が、“真鍮の強み”を浮かび上がらせた
3つ目が「金刻(きんこく)」である。元々は2020年の東京オリンピックに向け、チタンに色付けを施し、画像を彫り込んだ商品を構想していた。レーザー彫刻機も導入し、開発を進めていたが、無観客開催が決まり、想定していた売上が見込めなくなった。
ここで終わらせず、構想を再設計したのが近藤さんらしい。メダルの文脈に合わせ、金・銀・銅の金属にレーザー彫刻を施す方向へ。その過程で、真鍮(銅と亜鉛の合金)が極めて熱伝導率が高く、加工時間が大幅に短縮できることを突き止めた。本来30分かかる作業が5分でできる——この発見が、勝ち筋を「真鍮×刻印」へと定める決め手となった。
通常、金属への写真表現はプリントが主流だ。だが刻印であれば、半永久的に色あせず、記念品としての価値が上がる。当初は名刺サイズのプレートに写真・文字・ロゴ・QRコードなどを刻む形で展開していたが、顧客の声に耳を傾けるうちに「名刺サイズ」ではなく「名刺そのもの」に進化し、“金の名刺”も生まれた。ビジネスシーンでのインパクトは大きく、退職・昇進など節目の贈り物として選ばれるケースもあるという。
金属に写真を刻むには、データの前処理や機械設定が難しく、素材特性の理解が不可欠だ。
4つ目が、子供向け夏休み自由研究企画「にじいろのしおりを作ろう!」では「金属を水に入れると色が変わる不思議な実験」を通じて科学的な驚きと体験的な学びを提供している。さらにOMOTENASHI Selectionの認定を受けインバウンド向けに“にじいろのしおり ― 日本の美と科学が出会う特別な体験”を展開し日本の自然美と先端技術が融合した五感に訴える体験を通じて、心に残る感情価値へと繋げている。近藤さんは、「これは金属の特性を知りつくしている会社でなければ成立しない」と語る。
自社の成功を、他社の希望に変える
ダイテックでは、近年社会問題となっている事業継承ついても、約3年前から計画的に取り組み、順調に進んでいる。「アトツギ甲子園」(中小企業庁主催)の中部地区予選に出場するなど次世代へ事業を託す準備を着実に進めている。
産業構造の変化により、BtoBが先細りしていく中小製造業は少なくない。ダイテックがBtoC市場を切り拓いてきたプロセスが、同じ悩みを抱える町工場の“モデルケース”になれば——近藤さんの言葉には、同業へのエールがにじむ。
技術は、本来もっと自由でいい。そして町工場は、もっと“選ばれる存在”になれる。ダイテックの挑戦は、その可能性を現実に変えつつある。
【企業情報】
有限会社ダイテック
- 本社住所:
- 〒444-0813 愛知県岡崎市羽根町若宮44−1
- HP:
- https://daitekku.jimdofree.com/
- 設立:
- 2006年4月
- 代表取締役:
- 近藤 充雄