「温かい食事」を当たり前にするために――高齢者施設の現場を支える“食”のインフラ

宅食サービス部門

Co株式会社 代表取締役 石井 則好

北海道で、高齢者施設向けの“調理済み真空パック食材”を提供するCo株式会社。同社が展開する食事提供システム 「快傑!モリッケ」 は、厨房の人手不足に悩む介護施設の現場で、食のあり方そのものを変えつつある。
その中心にいるのが、代表取締役の石井則好氏だ。自動車整備士として12年働いたのち、まったく異なる領域へ転身。「おじいちゃん、おばあちゃんの喜ぶ顔が見たい」という思いを軸に、温かい食事を“少人数で、確実に、毎日届ける”仕組みづくりに挑んできた。

「機械が好き」から始まった人生が、なぜ“食”へ向かったのか

石井氏は高校時代、バイクに夢中だった。機械いじりが好きで、自動車整備の道へ進むのは自然な流れだったという。大手自動車メーカーに入社し、12年間整備士として現場に立ち続けたが、ある日突然、営業部門への異動を命じられる。

「『人を惹きつける才能がある』と言われましたが、正直、違和感が大きかった。自分のやりたい営業と、会社の方針が噛み合わず、葛藤が増えていったんです」次第に強くなったのは、「自分が信じるやり方で働きたい」という感情。独立を模索するなかで背中を押したのは、妻の何気ない一言だった。

「どうせなら、誰かを助ける仕事にしたら?」「高齢者の食事って、困っている人が多いみたいだよ」

まったく畑違いの分野。それでも石井氏は、その言葉に“人を助ける仕事”の意味を見出し、高齢者食事サービスの世界へ飛び込む決断をする。

「味より温かさ」――現場の声が“快傑!モリッケ”を生んだ

石井氏はフランチャイズの弁当宅配などを経験したのち、現在は施設向けの食事提供システム「快傑!モリッケ」を主軸に据えている。その核となるのが、調理済み真空パック食材 と 再加熱システム の組み合わせだ。まず真空パック食材は、調理直後の料理を急速冷却し、冷蔵状態で真空パック化する。これにより、少ない調味料でも味がなじみやすく、劣化を抑えた状態で届けられる。

しかし、石井氏が本当に解決したかったのは“味”だけではない。施設利用者へのアンケートで強く突きつけられたのは、意外にもシンプルな声だった。「とにかく、食事が冷たいのは嫌だ」“温かいこと”が、何より大切だと感じている人が多かったのである。食事は高齢者にとって、生活の中の数少ない楽しみの一つ。だからこそ、温度にこだわる必要があると確信した。

そこで導入したのが、リヒートウォーマーキャビネット。冷蔵庫としての役割も担い、盛り付け後に冷蔵しておき、タイマーで適切な時間に温められる。従来、40人分の食事を提供するには早朝から5〜6人の調理人が必要だった。しかし「快傑!モリッケ」では、1人が1時間ほど動けば40〜50食分を用意できる。人手不足が深刻な施設ほど、この効果は大きい。さらに、スチームで“硬くならない”よう芯まで温める仕様に加え、芯温センサーによる加熱記録 も残る。万が一体調不良者が出た際も、保健所へ提出できる形でデータが残り、原因究明に協力できる。

「おいしい」だけでなく、「安全・管理面でも安心できる」ことが、現場からの評価につながっている。

「これで生きられる」――配達の現場で芽生えた覚悟

石井氏が理念として掲げるのは、「おじいちゃんおばあちゃんの喜ぶ顔が見たい」 という言葉だ。それは飾りのスローガンではない。

配食を始めたばかりの頃、石井氏自身が配達に回っていた。食事を届けるだけでなく、カーテンを開ける、電球を替える、郵便物を出す――そんな小さな手伝いを日常的に行っていたという。

すると、ある高齢の男性が毎回こう言ってくれた。「ありがとう。今日もこれで生きられる」「どうか、この事業を続けてね」この言葉が胸に刺さった。サービスが“便利”なのではなく、“生活の一部”になっている。そこに気づいた瞬間、石井氏の中で仕事の意味が決定的に変わった。以来、従業員にも繰り返し伝えている。

「これは、最終的におじいちゃんおばあちゃんが喜んで食べるもの。愛情をもって作ろう」その言葉を重ねることで、現場にも同じ熱量が宿っていくことを願っている。

災害時こそ本質が問われる。“食のインフラ”としての責任

高齢者の食事は、命に直結する。50人規模の施設で突然食事が届かなくなれば、備蓄はすぐに尽きてしまう。石井氏はこの事業を「食事提供」ではなく「生活インフラ」と捉えている。

その真価が最も問われたのが、災害時だった。2018年の北海道胆振東部地震のブラックアウト、そして2022年の大雪。電気もガスも止まり、道路は寸断され、宅配便も止まる。その中で“どうやって食を止めないか”を考え続けた。雪の中を何時間もかけて自ら届けに行く。問屋を総動員して代替食を確保する。それでも難しい時は、近隣のスーパーを回って食材を集め、簡単な食事を作って届ける。泥臭い行動の積み重ねが、施設との信頼を強固にした。

現在は最悪の状況を常に想定し、全国のパートナー企業との連携などバックアップ体制を整えている。そして「快傑!モリッケ」は調理経験のない人でも提供しやすい仕組みのため、“届けられさえすれば”緊急時の運用にも強い。この設計思想が、非常時の現実に耐えるサービスへとつながっている。

「石井さんに連絡すれば何とかしてくれる」そう言ってもらえる関係性こそ、最大の資産だと石井氏は語る。

モットーは「うそをつかない」。顧客第一が信頼を生む

石井氏が仕事で最も大切にしているのは、「うそをつかない」 という姿勢だ。メーカー勤務で営業を経験した際、自分の信じるやり方と会社方針が噛み合わず、理不尽さを感じることが多かった。だからこそ今は、顧客のために最善を尽くすことを最優先に置く。

「誠実に向き合えば、結果として信頼が残る。信頼が残れば、事業は続いていく」この実感が、同社の成長を支えている。

目指すのは“過疎地まで温かい食事を”。新工場と次の提供形態へ

今後、特に力を入れたいのが 過疎地域への展開 と 新しい食事提供方法 の開発だ。北海道の広さ、人口の偏在、人手不足。調理員が確保できず、近所の居酒屋の大将が朝食づくりに駆り出されている――そんな施設すらあるという。だからこそ、過疎地域にこそサービスが必要だと石井氏は言う。

現在、札幌に新工場をつくる計画を進めており、さらに旭川にも工場を構え、道内全域をカバーする体制を整えたい考えだ。一方で、遠隔地の課題もある。真空パック食材は冷蔵で約5日保存できるが、さらに遠方へ届けるには“もっと長期の保存”が必要になる。

そこで検討しているのが、冷凍技術を活用した弁当スタイル。盛り付け不要で、長期保存が可能になれば、配送課題の解決につながる。ただ、リヒートウォーマーで再加熱する際に“蓋が溶ける”などの技術課題もあり、実験を重ねている最中だ。

さらに、パーキンソン病向けの特別食など、個別の食事ニーズにも応えていきたいという。施設側の反応はまだ大きくないが、必要とする人がいる以上、挑戦する価値はあると見ている。

温かい食事を、毎日、確実に。そして北海道のすみずみへ、やがて日本中へ。「技術革新」と「人間味のあるサービス」を両輪に、Co株式会社は今日も“食のインフラ”として走り続けている。

【企業情報】

Co株式会社

本社住所:
〒073-0042 北海道滝川市泉町1丁目14-30
HP:
https://genkitchen.net/
設立:
2007年5月
代表取締役:
石井 則好