デザインを“経営の言語”へ。企業価値を物語として立ち上げる協創ブランディング

デザイン部門

あめとつち株式会社 代表取締役 龍輪 誠

企業の価値は、ロゴやビジュアルだけでは伝わらない。事業に込められた思想、歴史、覚悟——それらが一本の「物語」として立ち上がったとき、初めてブランドは人の心に届く。あめとつち株式会社は、デザインを単なる装飾ではなく、経営と社会をつなぐ翻訳装置として捉え、企業価値を“共につくる”ブランディングを実践している。代表の龍輪誠氏が大切にするのは、「三方よし」と「本気の協創」。大手企業のブランディングから金融業界のマーケティング、カルチャーシーンの最前線までを横断してきた異色のキャリアの先に見出した、独自の経営哲学に迫る。

電気工事士から始まった、現場起点のクリエイティブ

龍輪氏は、いわゆる“デザインエリート”ではない。工業高校を卒業後、電気工事士として働く一方、夜はクラブシーンでDJやVJとして音楽や映像の演出に携わっていた。

当時はまだ手描き中心の時代。「パソコンが使える」という理由だけで、イベントのフライヤーやグラフィック、販促物の制作を任されるようになり、自然とデザインの仕事が増えていったという。

やがて、朝からの電気工事と夜のイベント制作の両立が限界に近づいた頃、インテリアデザイン会社の社長から声がかかる。アシスタントとして迎え入れられ、店舗の内外装、家具、WEB、映像、印刷物、看板制作まで——必要に迫られながら現場で叩き込まれるように学んだ。

「理論よりも、まず手を動かす。どうすれば“伝わるか”を、現場で体得してきました」その経験が礎となり、20代で独立を決断する。

トレンドの最前線から、経営の中枢へ

1990年代後半から2000年代前半。裏原宿ブランド、格闘技ブームといったカルチャーのうねりの中で、龍輪氏は選手や団体への衣装提供、入場演出、プロモーショングッズ制作などを一貫して担当する。

今で言う“ブランディング”を、言葉が一般化する前から実践していた形だ。その後、大手広告代理店との協業も増え、アートディレクターとして多領域で経験を積む。

転機となったのが、金融業界でのマーケティング経験だった。メガバンクや証券会社など、極めてロジカルで厳密な世界。MBAホルダーやアナリストと10年近く仕事を共にする中で、龍輪氏は「クリエイティブと経営が地続きである」ことを実感していく。

「お金、経済、行動心理。デザインの先にあるのは、意思決定そのもの。企画力や構想力は、そのまま経営力だと感じました」

“担当者仕事”から、“経営者の右腕”へ

キャリアを重ねる中で、次第に違和感も生まれた。上場企業や有名企業の仕事では、どうしても“担当者対担当者”の関係になる。経営者の意思やエンドユーザーの顔が見えづらく、企画は多くの部署を回るうちに角が取れていく。

「下積みの頃、オーナーと直接向き合っていた仕事のほうが、手応えがあったんです」

そこで、代理店や下請けの仕事から距離を置き、中小・零細企業の経営者と正面から向き合う道を選ぶ。中小企業には、優れた“モノ”や“想い”がある。ただ、それが適切な言葉や形で伝えられていないだけ——そう確信していた。

象徴的な事例が、十数年前に携わった老舗米菓メーカーだ。地場産業に徹底的にこだわり、原材料から和紙、風呂敷に至るまで「地域全体の価値」を表現する提案を行った。当時はまだSDGsという言葉も一般的ではない時代。原価は上がり、社内から反発もあった。それでも社長は、中長期的な価値を見据えて決断した。結果、1枚100円を超える煎餅は、贈答品として定着し、熱心なファンを獲得していく。

「経営者と対等な立場で、価値を共につくる。これが、健全なクリエイティブだと思っています」

「三方よし」と「本気度」が、協創の条件

龍輪氏が重視するのは、クライアントの規模ではない。目的を共有できるかどうか、そして本気で勝負しているかどうかだ。

「予算500万円でも、大手なら一施策。でも中小企業にとっては、社運を賭けたプロジェクトです」

失敗すれば会社が傾くかもしれない。その覚悟があるからこそ、こちらも全力で向き合える。

近年は、大学や保育園など、地域コミュニティと深く関わるプロジェクトも増えている。茨城県下妻市の下妻保育園では、開園70年という歴史を持つ認可保育園のリブランディングを支援している。公立保育園でありながら、民間委託という特殊な立ち位置。「放っておいても成り立つ」からこそ、あえて変化を選ぶ難しさがある。

園長、保育士、運営スタッフ、保護者、子どもたち——すべてのステークホルダーを巻き込みながら、「地域の未来にとって、この園は何者であるべきか」を問い続けている。

AI時代にこそ、感性が価値になる

AIによるデザイン生成やマーケティングの自動化が進む中で、龍輪氏は「人間の役割はむしろ明確になる」と語る。

「何を伝えるべきか、その“核”を見極めるのは人間です」

金融機関、医療機関、大学、士業など、情報が難解で“冷たく見えがち”な分野こそ、デザインの力が生きる。AIは過去データから最適解を導くが、未来への期待や感情の揺らぎまでは扱えない。

伝統工芸の映像を見て、職人の息遣いや道具の使い込みに物語を感じる——そうした言語化できない情報こそ、人の感性が読み取る価値なのだ。

良質な佇まいを、ひとつずつ社会へ

あめとつち株式会社は、あえて大きなビジョンを掲げない。掲げているのは、「良質な佇まいをデザインする会社」という定義だけ。名刺、ホームページといった小さな接点から始まり、制作物をゴールにせず、その先の目的を共に考える。時には、クライアント以上に先回りして提案する。そうした積み重ねが、やがて信頼となり、より本質的なブランディングへと深化していく。

「派手な成果より、地に足のついた価値を。それが、結果的に多くの人の未来を豊かにするはずです」

企業価値を、物語として紡ぐ。協創という名のブランディングは、今日も静かに芽を育てている。

【企業情報】

あめとつち株式会社

本社住所:
〒107-0062 東京都港区南青山2丁目2番15号
HP:
https://ametotsuchi.jp
設立:
2018年5月
代表取締役:
龍輪 誠